モバイル通信コラム

【徹底解説】クラウドSIMで障害が発生した原因は何?今後どうなる?

【徹底解説】クラウドSIMで障害が発生した原因は何?今後どうなる?

トミー
トミー
こんにちは!通信業界20年目のトミーと申します。

この記事では、2020年春にクラウドSIMで発生した障害の原因について解説しています。

サービスの性質と事実関係を正しく理解していただく事を目的に作成しています。

はじめに

クラウドSIMにどこか懐疑的な印象を持っている人も少なくないと思いますが、そこには大きな誤解があります。

クラウドSIMは、これからのグローバルな高度情報通信社会において、数々の問題を解決する手段にもなり得る重要な技術です。

そのことを、皆さんにも広く知っていただきたいと考えています。

トミー

この記事の著者:トミー(ネットワーク・移動体通信エンジニア)

通信業界20年目、現役の移動体通信技術者です。
これまでに3Gの周波数再編や4G LTEの立ち上げ、災害で使用できなくなったネットワークの復旧対応、東京オリンピック・パラリンピック競技会場のネットワーク構築計画推進、BWAのエリア構築などを行い、北海道から沖縄まで日本全国のモバイル通信を陰で支えてきました。現在は5Gのエリア構築に深く携わっています。 » 著者プロフィール詳細

2020年春にクラウドSIMで発生した障害とは?

2020年春にクラウドSIMで発生した障害とは?

2020年の春に、クラウドSIM技術を採用しているモバイルWiFi事業者の数社で通信障害が発生しました。

当サイトでもおすすめさせて頂いている、多くのユーザーを抱える大手2社で2020年3月発生した事象と保障内容を確認してみましょう。

どんなときもWiFiのケース
日時事象
2020年3月18日ユーザーより速度が著しく遅い旨申告があり、運営元で調査開始を発表。
2020年3月20日運営元からの発表
パートナー企業より下記の回答があった旨を報告
①キャリア全体のデータトラフィックの増加により、一部のキャリアからのSIMカードの提供がストップしていて、SIMの増強に遅延が生じている。
②新型コロナウィルスの影響により、SIMカードを動かす為の設備の製造および発送が停止、遅延している。
これにより、十分なデータ量の確保ができておらず、完全復旧の見通しが立っていない状況である。
2020年3月21日利用者に対して回線休止申請を受付する旨発表
2020年3月30日3月分の利用料金免除(返金)を発表
対象者は以下の通り
・2020年3月31日までにご契約いただいた方
・返金時にサービスをご継続いただいている方
2020年4月3日新規申し込みの一時受付停止を発表
2020年4月15日過去のデータ通信実績で一定の基準を超えた既存ユーザー対し、25GB/月の制限を適宜実施する旨を発表。
補償内容は、制限の対象者は次回更新月まで利用料金は無料。
また、制限がかかる事により追加で別のインターネットサービスの利用が必要なユーザーに対して、上限1万円(税抜)を1回まで補償。(契約日がわかる資料と利用明細が必要)
トミー
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経緯の詳細や、ユーザーへの補償内容についてはこちらで発表されています。
限界突破WiFiのケース
日時事象
2020年3月7日ユーザーからの速度低下の申告により運営会社にて調査開始
下り1Mbps前後 1日の利用が3GBに達した場合、低速化の事象有り。
2020年3月13日運営会社からの発表
一部ユーザーの膨大なデータ通信により、SIMサーバーの不安定を引き起こし局所的不具合が断続的に発生している。
今回の速度低下は、著しく容量を占領するユーザーを一時的に調整する為のもので代理店側で実施した。
3月12日時点で低速発生時の実績は下り5Mbps前後
2020年3月28日運営元からの発表
一部のお客様による不正な超大容量データ通信が継続的に行われた事により、メーカーの通信サーバーが著しく不安定になり不具合が断続的に発生致しました。そのため、通常にご利用いただいているお客様に対しても影響が生じております。
代理店との条件変更により、これまで通りのサービス継続が困難となり、新ルールを設けたうえでサービス改善に務める旨発表。新ルールは以下の通り。
月間のデータ通信量に上限はないが、1日5GBまで高速利用可能、5GBを超えた場合、下り4Mbps / 上り1Mbpsに速度制限。
また、1日10GBを超えた場合は、128kbpsに速度制限。
補償:3月分の通信品質に満足しない場合には3月分の利用料金を全額返金し、解約希望者には手数料・違約金など無料で解約を承る。
2020年4月8日新規申し込みの一時受付停止を発表(コロナウイルスの影響による端末枯渇のため)
トミー
トミー
X-mobile木野社長の動画も拝見させてもらいましたが、全力を挙げて対応されているようです。

クラウドSIMで起きた障害の原因と問題事象の整理

クラウドSIMで起きた障害の原因と問題事象の整理

トミー
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3月に発生した原因の分析と、問題事象の整理をしてみましょう。

【直接原因】物理SIMの供給停止と、一部ユーザーの膨大なデータ通信

3月に発生したグッドラック社の事象は、公式のリリースにもある通り、物理SIMの調達ができなくなったことが直接的な原因です。

物理SIMの追加調達ができなくなる事により、問題のないSIMにトラフィックが偏り回線がパンク状態となります。

トラフィックが集中した正常なSIMも容量は有限のため、やがて速度制限に掛かりエンドユーザー側で超低速となります。

エックスモバイル社は、一部ユーザーの膨大なデータ通信によりサーバーが著しく不安定になり不具合が断続的に発生したと発表しています。

ただし、サービスの性質上、無制限を訴求していますので、エンドユーザー側に悪意があるとは言えません。

【根本原因】MNOのSIMで無制限のプランはない

クラウドSIMのサーバーには、世界各国の物理SIMが沢山保有されています。

多くのクラウドWiFi事業者では、事業者向けの再販用SIMをメインに利用していますが、日本のMNOからは容量無制限のプランは販売されていません。

ですので、エンドユーザーに対して無制限のサービスを提供するには、物理SIMの調達を絶え間なく繰り返す必要があります。

理論上、無制限を実現する事は可能です。

ただし、SIMの調達がショートするとこのスキームが破綻する事になりますので、ガソリンが供給されなくなった車のような状態で、走ることができなくなります。

想定していた需要を大幅に上回る、膨大なトラフィックがあった場合にも破綻を助長することになります。

今回MNOが物理SIMの供給を停止した背景には以下の要因があると考えられます。

これ以上トラフィックを増やせない

この中身をブレイクダウンしていくと、以下の理由が考えられます。

【理由1】そもそもテレワークなどの増加に伴いトラフィックが増えている

→新型コロナウイルスによる自粛が影響

【理由2】ほとんどのクラウドWiFi事業者が、同一MNOの再販用SIMをメインにしているため、1社にトラフィックが集中している

→他社WiFiからの乗り換えなども含め、そもそもクラウドWiFiのユーザー人口が増え過ぎた

これ以上トラフィックが増加すると、利益よりもリスクが上回ると判断したためだと考えられます。

ネットワークの輻輳ふくそうを放置すれば、帯域を圧迫して一般ユーザーにも迷惑がかかり、最悪の場合は大規模な通信障害に繋がる可能性もあります。

技術構造やプラットフォーム自体に問題があるわけではない

クラウドSIMは中国に本社を置く、uCloudlink社がサービスとプラットフォームの開発を行っています。

uCloudlink社はあくまでも技術とプラットフォームを提供するベンダーとしての立ち位置のため、日本でどのような運用がなされているかは本来感知しない部分になります。

前述の通り原因は技術構造やプラットフォームとは別のところにありますが、誤解されているユーザーは多くいるようです。

同社から公式サイトで声明が発表されましたので、誤解なきよう掲載させて頂きます。

日本マーケットにおける一部代理店のローカル通信障害問題について

この度、日本マーケットにおける一部代理店様のローカル通信障害が生じたことにより、ネット上では様々な誤解を招きかねない記事や事実誤認に基づく心ないコメントが多数見られます。

これらの内容は事実無根であり、弊社としては、CloudSIMプラットフォームや通信端末自体は全く問題なく稼働していることをここに声明します。

大変お手数をお掛けしますが、通信速度の制限またはローカルSIMの障害につきましては、サービスの提供元へお問い合わせいただきますようお願い申し上げます。

弊社としましては、上記のような記事やコメントが投稿されることについて、極めて遺憾に思っており、今後もこのような事態が継続するようであれば、法的手段を含むあらゆる手段を通じて、弊社の権利を保護する必要があると考えております。

なお、一部代理店様も解決に向けて最善の努力を尽くしており、弊社もできる限りサポートしていく所存です。エンドユーザーの皆様に快適な通信環境を構築するのは、私どもの使命であります。

これからも日本の代理店様を通して最新の通信製品やサービスを提供し続けて参ります。お客様におかれましては、今後ともご愛顧を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

出典:uCloudlink公式サイト

再発防止策や改善策はあるのか?

再発防止策や改善策はあるのか?

トミー
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安定した通信を供給するためにはどのような策があるのか考えてみました。

1.従来通り物理SIMの調達をする

物理SIMの調達を繰り返す事で、エンドユーザーに対して無制限のサービスを提供する事は理論上可能ですが、SIMの供給がストップすれば再発する事になります。

2.MNOが再販事業者に対して無制限プランを用意する

SIM調達コストが高額になるので、今の価格帯でサービス提供されるかは疑問が残ります。

3.WiMAXのように速度制限のルールを設ける

有限な容量をシェアして使用するスキームである以上、速度制限のルールを設ける。

一部ユーザーの占有によって全体が破綻するリスクも払拭されます。

今後の展開は容量制限のルール策定とユーザーへの開示が鍵

今後の展開は容量制限のルール策定とユーザーへの開示が鍵

トミー
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今回の記事のまとめです。
  • 2020年春にクラウドSIM利用のモバイルWiFiで障害が発生した原因は、SIMの調達が困難になった事によるもの
  • 現在のスキームで安定的な運用を行うためには、物理SIMの調達を絶え間なく繰り返す必要がある
  • クラウドSIMの技術構造やプラットフォームに自体に問題があるわけではない

現在のモバイル通信において「容量無制限」というワードは、不老不死と同じであるため大きな魔力があります。

日本では無制限という事にフォーカスが当たり過ぎていますが、クラウドSIMの技術を考えると、マルチキャリア利用可能なこの技術にはeSIM以上に将来性しかないと考えています。

有限な容量をシェアしてサービス展開する以上、安定した運営には容量制限のルール設定と開示、エンドユーザー側もしっかりと腹落ちしたうえでサービス利用をする事が鍵になると考えられます。

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トミー

通信業界20年目。現役バリバリの移動体通信エンジニア・Webライターです。 モバイル通信や光回線、IPネットワークの他に、海外の通信事情などにも詳しいです。 当サイトの記事を全て執筆、作図や動画編集も担当しています。 このサイトでは、最高のインターネット環境に出会うための、お手伝いをしたいと思っています。
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